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魚は陸で捕れるもの?陸上養殖の事業化進む


陸上養殖とは

陸上養殖とは魚を陸地で魚を育てるものです。陸の上で育てるわけではなく陸地に設けた養殖プラントで魚を育てる養殖方法です。プラントの場所は別に海の近くである必要はありません。山の中など内陸部でも海産物を生産できます。またデパートの地下にプラントを作れば、店頭で魚を安価で販売できるようになります。流通倉庫内にプラントを作ればインターネットからの注文でその日のうちに新鮮な魚を届けることも可能。魚の生産(漁獲)と物流を根本から変える可能性を秘めています。

これまでは陸上養殖は多くは実験的なものか小規模なものに限られていましたが、今後はひとつの漁業の形として食を支えていくことになりそうです。

水産物消費の実態――日本は魚離れではなく魚不足

近年、不漁のニュースが日常的になっています。水産庁の「令和2年度 水産白書」によれば、世界の魚介類消費は過去半世紀で約2倍に増加しています。世界的な食糧需要の高まりなどを背景に、魚の乱獲が止まりません。全世界の漁獲生産量を見ると1985年あたりから横ばいで伸びていない一方で、新興国を中心に魚類の需要は増加の一途をたどっています。

日本の漁業・養殖業生産量を見てみると減少の一途をたどり続けており、ピークだった1984年(1282万トン)と比べ3分の1近くまで減っています。

若者世代を中心に日本の魚離れが叫ばれて久しいですが、その実態は日本でも魚不足が常態化しているのです。

需要を補うため養殖産業は拡大が進み、今日漁業生産量の約半分を占めるまでになっています。しかし養殖にも課題もあります。魚類の需要が現在のペースで増えていくと、近いうちに養殖による魚類の供給も需要に追いつかなくことがはっきりしています。それは現在主流となっている海の一部を囲って行う海面養殖では、養殖に適している場所が限られるからです。

というわけで陸上養殖の事業化が推進されています。とはいえ陸上で大規模に養殖を行う場合、生産管理と品質安定の難易度は高いという難点があります。さらに1つの飼育法をほかの環境や施設で再現することが難しいという点も課題となっていました。

次世代の陸上養殖テクノロジー

https://project.nikkeibp.co.jp/mirakoto/atcl/mirai/h_vol40/

いま注目されているのが閉鎖循環系という方法です。閉鎖循環式は生け簀の水を常にろ過しながら循環させる方式です。水道水や工業用水を海水化して使えるのもメリットのひとつです。水をほとんど入れ替えず循環させるため、一定の水温を保つ際の熱効率が高いことがメリットのひとつです。例えばサーモン類の養殖では、水温を15℃以下に保たなければなりませんが、日本だと夏場は水温が30℃近くまで上がることがあり、水を入れ替えながら15℃を維持しようとすると電気代などの負担が大きいため、閉鎖循環式の効率の高さはメリットとなります。もうひとつのメリットとしては、陸上養殖は、餌、水質を含めた生育環境などを管理しながら魚を育てられるため「食の安全」にもつながることがあげられます。魚は天然物が貴重で品質も良いと受け止められがちですが、管理された環境で“生産”したもののほうが海水中にいる病原体を避けられるなど、品質を高めやすく食の安全にもつながります。

また、海面養殖のように海を汚さずに済むというメリットもあります。海面養殖では海底に魚の排泄物が溜まってしまい、海洋が持続的に使えなくなる可能性があります。陸上養殖なら、そういった問題は避けられるわけです。

閉鎖循環式の陸上養殖を実現するうえで新たな技術が必要です。そこで従来漁業とは直接関わりの薄かった企業が陸上養殖分野に参入する例も多くなっています。たとえば陸上養殖を継続的に事業化するポイントは、水質をいかに保つかです。水を循環させるだけだと魚の泄物に含まれるアンモニアが生け簀の中に溜まっていき、その毒性によって魚が死滅してしまいます。このため、アンモニアなどの不純物を除去し、水をきれいに保つことが重要になります。そこで工場や上下水道場の水処理プラント技術が役に立つということで、上水道処理で実績のある荏原製作所のようなメーカーが参入する例もあります。

出典:丸紅

大規模なプラントだけではなく、小規模なプラントも考えられています。たとえば下の写真のようにいけすのような形のコンテナパッケージも考えられています。内陸部でも、都会の空き地でも、レストランにでも設置できることを想定しています。

出典:ARK

現時点で陸上養殖を積極的に進めている魚種は世界的に人気のあるサーモン類です。サーモン以外では、ウナギやエビなどいずれも人気があり漁獲量の減っている魚介類がターゲットになっています。



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