近年、ビジネスのボーダーや枠組みがデジタルやネットワーク技術によって破壊され、企業は新たな事業の創出を強く求めています。新規ビジネスの創出や創発といわれる取り組みです。多くは経営部門肝いりで新規事業創出部門を設立し、コンサルと協力して、早期に新規事業のデザインと立ち上げを目指します。
よくある手法としては、自社の知的財産やコアコンピタンスの整理といったIPマッピングというプロセスを行います。とはいえ現在の知的資産をベースに、例えばオープンイノベーションでスタートアップ企業と協業した程度では短期的には事業は成功したとしても、永続性のある柱事業のようなものを生み出すことは難しいのが現状です。
ですのでそれとは別に、現在のトレンドや技術革新などの要素をもとに未来、十年から数十年後の未来社会の姿をデザインします。そのなかでどんなサービスや技術が活躍しているか、そして自社の分野や技術が活かせる可能性を分析します。そして未来社会の画期的なサービスや製品を実現するためには、どんな要素技術や技術革新を生み出していかなければならないかを分析し、その道筋(ロードマップ)をつくります。そしてそこに資本を集中していきます。
とまあ、こんな感じで事業創出アプローチを進めている企業は多いと思うのですが、ここで問題となるのが、自社の知的財産やコアコンピタンスは自社のことなので容易に把握できるのですが、「これからの市場ニーズがわからない」「新たなテクノロジーが出てきても、それをどう新たな企画に結びつければよいのかわからない」このような悩みを抱えている方は多くいるのではないでしょうか。
新規事業創出ではいかに新しい価値を生み出せるかが肝要です。企業の中にいるとどうしてもアイデアが小さくなってしまったり、世代間で感じるリアリティにズレがありアイデアが理解されないというケースがあります。頭の凝り固まった企業内のメンバーでは「想像を超えた創造」を生み出すのは難しいものです。
また未来社会のシミュレーションは、5年後であれば想像は容易ですが、10年後、数十年後となると人々の価値観もすっかり変わってしまいます。それなのに現在の感覚に引きずられた想像しか出なくなってしまいます。
ということで仕方なく政府機関やシンクタンクがつくる未来社会のビジョンをベースにするという安易な方法もよく見られます。ベースが同じであれば同じようなものしか出てこないというのが現実です。
こうした状況のなか、斜め上のアイディアを出すために、SFの手法を用いて未来のニーズ、未来のあるべきビジネスを考える「SFプロトタイピング」が注目されています。
ビジネスの助けにSFを使うというのは遊びでもなんでもなく、この手法は、インテルのフューチャリスト(未来研究者)であるブライアン・デビッド・ジョンソン氏によって2010年頃に導入された手法です。急激に進化する科学技術が未来に及ぼす影響や全く新しい可能性などを考察する目的で作られた手法であり、特定分野における未来予測からインスピレーションを得て現在に活かすことを得意としています。
SFに影響されたビジョンから逆算し、どのようにビジネスに生かすことができるかを考えることが、SFプロトタイピングの考え方です。
SF作品の中にあらわれた未来のビジョンが現実に影響を及ぼした例は枚挙にいとまがありません。例えばウェルズの月世界旅行が月ロケットや宇宙探査のモチベーションになりました。ニューロマンサーや攻殻機動隊は現実のサイバー社会のビジョンとなりました。また新しいところではスノウ・クラッシュやゲームウォーズ(レディプレーヤーワン)が最近多くの世界的企業の参入が進むメタバースの元ネタであることも有名です。
SFの提示するビジョンを実現するかのようにテクノロジーは進化・普及してきた経緯があります。
SFプロトタイピングのメリットとしては、SFの方法論でストーリーに乗せていくとイメージが持て、アイデアが広がること。さらにSFの特徴である「宇宙規模の視点」を意識することで、硬直化した思考の枠組みを外すことができるという点があります。
SFプロトタイピングが向いているのは、SDGsなど、数年から数十年先を見越した長期的なプロジェクト、そして環境、技術、社会、経済と関連した複雑な未来予測を必要とするものです。
国内の大手企業でもSFプロトタイピングを導入する動きが進んでいます。
日立、ソニー、京セラ、コニカミルノタ、リコー、小岩井乳業といった大企業が、さまざまな取り組みを見せています。
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