近年企業の統合報告書やSDGsで「価値創造ストーリー」という言葉をよく見かけるようになっています。
「価値創造ストーリー」とは、自社ビジネスの成り立ちと、それが今後のチャンスやリスクをふまえて将来的にどのような価値を持続的に創造していくかを、投資家やステークホルダーに対して説得力を持って語るストーリーです。
財務・非財務の価値を統合的に説明する「統合報告」が一般的になってくると、その全体像を示すツールとしてこの言葉をよく使うようになりました。「価値創造ストーリー」は今や統合報告書の主要コンテンツとなっています。
いわば企業の過去・現在・未来の本質を誰にでもわかるようにシンプルなストーリー化する、というわけで、ちょっと考えただけでもやっかいな作業です。いくつかの企業では、企業ブランディングやCSRやSDGs関係をお手伝いしている関係で、時おり経営企画や広報IRの方から「いろいろ要素はあげてみたが、複雑すぎてまとまらないのでちょっと相談に乗ってほしい」という依頼が来ることがあります。
まとまらないのは無理もないとはお察しします。何十年も歴史のある企業ですから、いろんなビジネスを展開し拡げたり畳んだりしてきたことでしょう。またそのへんの事情や内実にもかなり詳しいでしょうし、思い入れも強いわけですから、自分の会社をシンプルに「こんな会社」とまとめるのは難しいのも当然のことです。さらに将来の事業機会に加えて、リスクの予測もしなくてはなりません。まとまりがつかなくなって、自分のような外部の人間から見て客観視してほしいというわけなのでしょう。
広報IR専門のコンサル企業さんに依頼すれば、慣れておられるので、まず間違いないものが出来上がります。しかしいろんな事情があって、自分のようなコンテンツ系の人間の意見も聞きたいのだろう、名誉なことだと思ってご相談に乗ります。
価値創造ストーリーの対になるものとして価値創造プロセス、価値創造モデルがあります。言語化したものがストーリー、1枚の図にまとめたものがプロセスやモデルです。プロセスやモデルの図に関しては、IIRC--International
Integrated Reporting Council(国際統合報告評議会)によってフレームワークが定められています。それに則った作り方をすることが求められています。
出典:IIRC
上記の図がリファレンスモデルになっています。このチャート構造をベースに、投資家の方はその企業の収益構造を評価します。ですのでこの原型からあまりはずれたものを作ると比較ができなくなるため、デメリットが生じるらしいです。そのため各社は上の図にのっとって自社の価値創造ストーリーを描きます。
いくつか例をあげます。
価値創造モデルの例:出典 TOTO |
各社ともベースにのっとりながら、さまざまな工夫を凝らしておられます。
実際、何回か価値創造ストーリー制作に携わってみて思ったことをいくつか紹介します。
自分がお手伝いする時は、既に価値創造モデルのひな型ができている場合もあれば、とりとめのない資料の集まりということもあります。
まずは情報整理から始めます。いろいろな部門の方にヒアリングを行うのも必須です。また文章化されていないものの「発見」する作業も必要です。なぜなら明文化されていないもの、当たり前すぎるもののなかに企業の本質がしばしば隠れているからです。
そこで発見した項目を、まとめたり、関連づけたりしながらひとつのストーリーをまとめます。
図をきっちり見やすく作ることも重要ですが、あくまで図は図であり、そこに込められた意味を伝わる物語として言語化することがストーリーづくりです。
自分は10分ほどの簡単な成長物語のシノプシスをつくるように心がけます。ドラマですから、起承転結あり。生まれ。困難。出会い。冒険。克服。めでたしめでたし。そんな流れです。たとえばファンタジーであれば、小国の王子、剣の才能に秀でてる、国が大国に侵略され逃亡、冒険の道筋で数々の仲間と出会い、理想の国家像を夢見る、そして見事に大国から国を取り戻す、独自の国家ビジョンを掲げ数々の政策で国力をあげて、ついに大国と雌雄を決する時が‥‥みたいな感じ。
そんなアプローチをする理由は、そういう話がいろんな人が共感しやすいからです。いろんな人が見るものですので、なるべく多くの方に共感していただくことが大切だと思います。それには分かりやすく、シンプルで胸踊るお話が必要です。今後も長期にわたって読者を魅了し続けるさまざまな伏線も必要となってきます。そのためには冒険ストーリーが最適です。
主人公の目的や使命(企業のミッション)、キャラクター(ブランド)、得意技(コアコンピタンス)、味方や仲間 (経営資源)、さまざまなエピソード(事業)、成長の過程(成長戦略)、将来像(持続可能性)、周囲の環境(外部情勢とそる克服可能性)などを、ひとつの物語としてまとめます。
なので本筋と関連性の薄い要素はどんどん削っていくことになります。話に迷いや寄り道が生じるからです。読み手(投資家・ステークホルダー)は一貫しない物語を好みません。削る過程では顧客といろいろ議論をしますが、「これは重要な要素なので」と言われる場合もあります。そういう場合は、中長期を見すえた投資家の視点からそれを組み込むことの是非を議論します。
あたかも創作するようなアプローチで説明してきましたが、あくまで大切なのは、そこに企業の思いが込められていることです。言語化されていない自社の価値創造の未来像を、説得力のあるストーリーにまとめていくことが最重要です。
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